はじめに――「うまく引き継げない自分」を責めている生徒たちへ
部活動の代替わりは、多くの学校で毎年必ず訪れる節目です。
3年生が引退し、新体制が始まるこの時期、生徒たちは期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱えています。
特に新しいキャプテンや部長になった生徒からは、
「先輩のようにできません」
「自分がリーダーでいいのか分かりません」
「注意すると空気が悪くなってしまいます」
といった声を耳にすることが少なくありません。
一方、教員側も「もう任せたいが、うまく回っていない」「どこまで関わるべきか迷う」と悩むことが多いのではないでしょうか。
こうした代替わりの混乱は、生徒の力不足なのでしょうか。私はそうではないと考えています。実はここには、リーダーシップに対する誤解が大きく関わっています。
本記事では、部活の代替わりに悩む生徒に寄り添うために、教員として知っておきたいリーダーシップ理論を整理しながら考えていきます。
「リーダーは向いている人がなるもの」という思い込み
代替わり直後、生徒が最も抱きやすいのが「自分はリーダーに向いていないのではないか」という不安です。
声が大きくない、強く言えない、前に出るのが苦手。そうした性格を理由に、自分を責めてしまう生徒は少なくありません。
これは、リーダーは生まれつき特別な資質をもつ人だと考える、いわゆる特性理論に近い発想です。しかし、この考え方は生徒を追い込みやすく、「向いていない=努力しても無駄」という結論につながってしまいます。
教員としてまず大切にしたいのは、リーダーシップは性格ではなく、関わり方の積み重ねで育つものだという視点です。
リーダーシップは「何者か」ではなく「どう関わるか」
特性理論への反省から生まれたのが、行動理論です。この理論では、リーダーシップを「その人の性格」ではなく、実際にどのような行動を取っているかで捉えます。
行動理論では、リーダーの行動は大きく次の二つに整理されます。
- 目標や役割を示す行動(課題志向)
- メンバーに配慮し、関係を築く行動(関係志向)
代替わり直後の生徒は、「まとめなければ」「ちゃんと指示しなければ」と考え、課題志向に偏りがちです。
その結果、注意が増える→雰囲気が悪くなる→さらに焦る、という悪循環に陥ることもあります。
ここで教員が「今は関係づくりを大事にしてもいい時期だよ」と声をかけられるかどうかは、とても重要です。
ポイント:リーダーシップは「性格」ではなく「行動」で育つもの
PとMで考えると、生徒の悩みが整理できる(PM理論)
行動理論を、より具体的で分かりやすく整理したのが、PM理論です。三隅二不二が提唱したこの理論では、リーダーの働きを次の二つで捉えます。
- P(Performance):目標達成・練習や試合を前に進める力
- M(Maintenance):人間関係を保ち、雰囲気を整える力
代替わりで悩む生徒の言葉を、このPとMで整理してみると、驚くほど分かりやすくなります。
「注意すると空気が悪くなる」
→ Pを高めようとして、Mが下がっている
「優しくすると締まりがない」
→ Mを大切にしているが、Pに不安がある
つまり、生徒は「リーダーに向いていない」のではなく、PとMのバランスに悩んでいるだけなのです。
PM理論では、リーダーは次の4タイプに分類されます。
- PM型:PもMも高い
- P型:Pは高いがMが低い
- M型:Mは高いがPが低い
- pm型:どちらも低い
ここで教員がぜひ伝えたいのは、代替わり直後にPM型である必要はないということです。
「今はM型でも大丈夫」
「まずは雰囲気を整える役割でも立派だよ」
こうした言葉は、生徒の自己否定を大きく和らげます。
ポイント:最初からPM型を目指さなくていい。M型からのスタートも立派
「最初からうまくいかない」のは自然なこと(状況理論)
代替わり直後の部活が不安定になるのは、珍しいことではありません。リーダーシップ理論の中には、これを前提として考える**状況理論(SL理論)**があります。
ハーシーとブランチャードが提唱したこの理論では、集団の成熟度、メンバーの経験、タイミングによって、適切なリーダーシップは変わると考えます。
代替わり直後は、先輩から引き継いだ暗黙知が失われ、人間関係が再編され、役割が不明確になる、最も揺れやすい時期です。
この時期に教員ができる大切な支援は、「今は途中段階だ」という見方を生徒に渡すことです。
「最初からうまくいく代はほとんどありません」
「去年の3年生も同じでしたよ」
この一言で、生徒は安心して試行錯誤できるようになります。
ポイント:代替わり直後の混乱は自然なこと。「途中段階」として見守る
支えることも、立派なリーダーシップ(サーバント・リーダーシップ)
「前に出るのが苦手です」
「まとめ役より、サポート役の方が向いている気がします」
そう悩む生徒に伝えたいのが、サーバント・リーダーシップです。これは、支えることで集団を動かすという考え方です。
- 話をよく聞く
- 困っている人に気づく
- 裏方を引き受ける
これらは目立ちにくいですが、部活には欠かせない役割です。
教員が「それも立派なリーダーシップですよ」と認めることで、生徒は自分の在り方を肯定できます。
具体的な声かけ例:
「○○さんが後輩の話を聞いてくれるから、みんな安心して練習できているね」
「準備を率先してやってくれるの、すごく助かっているよ」
ポイント:前に出るだけがリーダーシップではない。支える役割も重要
引っ張らなくてもいい――意味を共有するリーダーシップ(変革型リーダーシップ)
部活がうまくいかなくなる背景には、「何のためにこの部活をしているのか」が共有されていないことがあります。
ここで参考になるのが、変革型リーダーシップです。この考え方では、命令や管理よりも、価値観や意味を共有することが重視されます。
「この部活で、どんな姿を目指したい?」
「勝つことと、人として成長すること、どちらも大事だと思う?」
こうした問いかけ自体が、立派なリーダーシップです。
具体的な声かけ例:
「みんなで一度、『自分たちの部活をどうしたいか』を話し合ってみたら?」
「目標を決めるとき、全員の意見を聞いてみるのもいいかもね」
ポイント:意味や目標を共有することも、重要なリーダーシップの形
教員にできる、たった一つの大切な役割
教員が部活の代替わりですべてを整えることはできません。しかし、できることが一つあります。
それは、「今の悩みは、成長の途中にある証拠です」という見方を、生徒に手渡すことです。
リーダーシップは、失敗と試行錯誤の中で育ちます。悩んでいる生徒ほど、仲間や集団を真剣に考えています。
おわりに――代替わりは、教育の時間
部活の代替わりは、単なる役職交代ではありません。
それは、生徒が「人を率いるとは何か」「集団で生きるとは何か」を学ぶ、非常に教育的な時間です。
PM理論をはじめとするリーダーシップ理論は、生徒を評価するためのものではなく、寄り添う言葉を見つけるための道具です。
うまくいっていないように見える今こそ、生徒は確実に成長しています。
教員がその成長を「途中段階」として見守れるかどうかが、何より大切なのだと思います。



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