2023年度の「国際理解」では、生徒から「目的が不明瞭」「事前準備などが多く、負担感が強い」といった課題が多く寄せられていました。2024年度はその反省を踏まえ、「国際理解とは何か」「なぜそれを学ぶのか」を根本から問い直し、カリキュラムを全面的に再構築しました。キーワードは「自分と世界との接点」。生徒自身の経験や関心を出発点としながら、身近な文化からグローバルな課題まで、スケールの異なる学びをつなげることを目指しました。

高校2年生:「体験から考える国際理解」
① 日本や地域の言葉から文化を知る
日本人学校には日本各地や海外から来た多様な背景を持つ生徒が在籍しており、それぞれの文化や価値観の共有は、国際理解の第一歩です。授業では「方言」や「言葉遣い」から文化の違いにアプローチし、自身や家族のルーツに目を向けることで、自分自身を再認識する機会としました。
この成果は、上海の現地校で日本語を学ぶ高校生に向けた発表会で発信され、異文化間の対話と交流を実現しました。
② オーストラリア修学旅行の事前・事後学習
修学旅行を異文化理解の実践の場として活用しました。事前学習では、オーストラリアの歴史や社会・文化を調査し、グループで発表し、現地での体験をより深めるための知識と視点を育てました。
帰国後はポスター発表を通して体験を言語化し、下級生に発表を行いました。行事を学びに変える試みとして、学内に良い影響を与えることができました。
③ 英語による映画制作(文化理解活動)
言語運用と文化理解を融合した取り組みとして、英語による短編映画制作を実施しました。例年行われていた活動に「異文化の視点」を明確に取り入れ、テーマ設定から脚本・撮影・編集までを生徒主体で行いました。
作品には、文化的背景や英語の地域アクセント、多様性といった視点が取り入れられ、創作を通して自分たちの価値観を見つめ直す経験となりました。

高校3年生:「世界との関わり方を考える」
高校3年生の授業では、「世界を知り、自分の未来とつなげること」を目的に、より広範かつ現実社会に結びついたテーマに取り組みました。授業は以下の6つのユニットで構成され、すべて筆者が担当しました。
- 地域の歴史
日本人学校という特殊な環境に身を置く意味を再認識するため、歴史や都市形成について学習。移民都市としての成り立ちや多文化的背景に焦点を当てました。 - 世界経済と中国経済
グローバル化の中で中国がどのような役割を担っているのか、GDP・貿易・産業構造などのデータを基に分析。経済を通して世界と中国のつながりを学びました。 - 世界の企業・業界分析
自分の将来や進路を考えるうえでも、国際的に活躍する企業や業界の研究に取り組みました。企業理念、グローバル戦略、サステナビリティなどの視点で調査を進めました。 - 中国の格差社会
都市と農村の教育・医療・雇用格差を中心に、中国が直面する社会的課題を学習しました。数値データと具体的事例から「発展と課題」を読み解く力を養いました。 - アフリカの開発と貧困
中国と関わりの深いアフリカの現状について学びました。世界の経済格差から始まり、奴隷貿易や植民地支配の歴史などを学び、「資源の呪い」や「こども兵問題」などの諸課題について学び、各国の支援の仕方について考えていきました。 - 特別講演(オンライン)
YouTubeで国際協力師として発信されている原寛太さんとタンザニアで社会起業されている菊地モアナさんを講師として迎え、オンラインで講演をしていただきました。グローバルキャリアの実体験や、異文化の中で働くリアルな視点は、生徒に強い影響を与えました。

まとめ 〜「自分ごと」としての国際理解へ 〜
2024年度の「国際理解」は、表面的な文化紹介にとどまらず、「自分がどう世界と関わるのか」を深く問う内容へと進化しました。学びは、言語や映像制作などの表現活動から、社会・経済・歴史といった知的探究、そして将来を見据えたキャリア意識の育成にまで広がりました。
2025年度以降は、科目名はそのままに「中国語」の授業に置き換わる予定です。方向性は異なりますが、この1年の実践が「国際理解とは何か」という問いに一つの答えを示せたと感じています。

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