MEXCBT導入期の高校数学― 高校数学教員として、CBTとどう向き合うか ―

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GIGAスクール構想により、高校現場でも1人1台端末の環境が整いました。それに伴い、数学教員の間でも次のような声をよく耳にします。

「CBTって、結局テストが増えるだけでは?」
「数学は途中式や思考過程が大事なのに大丈夫なのか」
「定期考査や入試とどうつながるのか分からない」

こうした疑問の背景にあるのが、MEXCBT(文部科学省CBTシステム)です。本記事では、高校数学教員の視点からMEXCBTを制度として正しく理解し、日常の数学授業・評価とどう向き合えばよいのかを整理します。

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MEXCBTとは何か(高校教員としての前提理解)

MEXCBTとは、文部科学省が整備を進めている全国共通のCBT(Computer Based Testing)基盤です。CBTとは、紙ではなく端末上で行うテスト・評価の仕組みを指します。

MEXCBTは、以下を支える公的な教育インフラとして位置づけられています。

  • 全国学力・学習状況調査のCBT化
  • 各種学力調査や確認テスト
  • 学習履歴データの蓄積と活用

重要なのは、MEXCBTが「一つのテスト」ではなく、評価の考え方そのものを変えようとしている仕組みだということです。従来の総括的評価(学期末・年度末の一発勝負)に加えて、学習の途中経過を把握する形成的評価を重視する方向性が示されています。

では、この新しい評価の枠組みは、高校数学の授業とどう関わるのでしょうか。

高校数学とCBTは相性が悪いのか?

高校数学教員として、最も気になる点でしょう。

結論から言えば、高校数学とCBTは、役割を整理すれば十分に両立可能です。ただし、「何でもCBTでやろう」とすると失敗するのも事実です。

高校数学におけるCBTの適切な役割

高校数学には、次のような特徴があります。

  • 概念の抽象度が高い
  • 式変形・論理展開が重要
  • 解法選択や見通しが問われる

これらすべてをCBTで評価するのは現実的ではありません。では、何ができて何ができないのか。

CBTが得意な領域(高校数学)

  • 計算技能の定着確認
  • 基本的な概念理解のチェック
  • 用語・定義の確認
  • 典型問題での誤答傾向把握

具体例:

  • 「log₂8の値を選択肢から選ぶ」
  • 「y = sin2xのグラフの周期を答える」
  • 「f(x) = x³を微分した式を選ぶ」
  • 「ベクトル(2, 3) + (-1, 5)の成分を求める」

これらは即座に正誤判定ができ、かつ自動採点により教員の負担を減らせます。

CBTが苦手な領域(高校数学)

  • 証明問題
  • 複数の解法比較
  • 思考過程の記述
  • 数学的表現の質的評価

これらは、記述式評価や対話的な授業で扱うべき領域です。CBTに無理に押し込めようとすると、数学の本質が損なわれます。

MEXCBTを「定期考査の代替」と考えない

高校現場でありがちな誤解が、「MEXCBT = 定期考査がCBTになる」という捉え方です。

しかし、文部科学省が各種資料で示している方向性は、定期考査の単純なデジタル化ではありません。MEXCBTが目指しているのは、次のような評価観の転換です。

  • 評価を学期末の一発勝負だけにしない
  • 学習の途中経過を継続的に把握する
  • つまずきを早期発見し、指導改善につなげる

つまり、MEXCBTは形成的評価のためのツールとして機能することが期待されています。

高校数学授業での現実的な使いどころ

では、実際の授業でどう活用すればよいのでしょうか。

① 単元途中の「理解度チェック」

例えば、以下のようなタイミングで活用できます。

  • 微分の基本公式を一通り扱った後
  • 三角関数のグラフの性質を学んだ後
  • 場合の数の基本パターンを学んだ後

授業の最後5〜10分程度でCBT確認を行い、即時フィードバックを提供することで、「分かったつもり」を早期に発見できます。

② 定期考査前の弱点把握

MEXCBT的なCBT活用により、以下のデータが可視化されます。

  • クラス全体で正答率が低い設問
  • 個々の生徒のつまずきポイント
  • 計算ミスなのか概念理解の問題なのか

これは、「定期考査対策 = 演習量を増やす」という発想から、**「どこを補強すべきかを見極める」**という発想への転換を促します。

③ データに基づく授業改善

MEXCBTでは、以下のようなデータが得られます。

  • 設問ごとの正答率
  • 解答にかかった時間
  • 誤答のパターン(どの選択肢を選んだか)

例えば、「log₂8 = 3」を問う問題で多くの生徒が「8」と答えている場合、「対数の定義そのものが理解できていない」と判断できます。このデータを基に、次回の授業で対数の定義を再確認する時間を設けるといった改善が可能になります。

「CBTは思考力を奪う」という不安について

高校数学教員として、この不安は極めて自然です。

しかし重要なのは、思考力を育てる役割を、CBTに求めないことです。

思考力は、依然として授業で育てる

  • なぜこの解法を選ぶのか
  • 別解は成立するのか
  • 条件が変わるとどうなるのか

こうした問いは、板書・対話・ノート・記述の中で育ちます。MEXCBTは、その前提となる基礎技能と概念理解を効率的に確認・補強する存在です。

思考力を育てる授業と、技能を確認するCBT。この役割分担こそが重要なのです。

高校数学教員の専門性はどう変わるのか

MEXCBT導入期において、高校数学教員の役割が失われることはありません。むしろ、次の点で専門性がより重要になります。

① データを数学的に解釈できる教員

  • 誤答の背景を数学的に読み解く
  • 単なる計算ミスと概念の理解不足を区別する
  • つまずきの本質がどこにあるのかを見抜く

これは、数学を深く理解している教員でなければできない仕事です。機械的にデータを見るだけでは、真の改善にはつながりません。

② 授業に還元できる教員

CBTの結果を見て終わりではなく、次のような展開が求められます。

  • なぜ間違えたのかを授業で扱う
  • 典型的な誤答を教材化する
  • 次の単元への橋渡しをする

この**「授業への還元力」**こそ、高校数学教員の力量が問われる部分です。データはあくまで材料であり、それを授業という形で生徒に返すのは教員の専門性そのものです。

まとめ ― MEXCBTは高校数学を脅かさない

MEXCBTは、高校数学の本質を壊すものでも、思考力を奪う仕組みでもありません。

それはむしろ、高校数学の授業を、より精密に設計するための基盤です。

  • 思考力は授業で育てる
  • 技能の定着と把握はCBTに任せる

この役割分担ができたとき、高校数学はより「考える教科」になります。

MEXCBT導入期に問われているのは、数学教員の存在意義ではありません。何を授業で扱い、何をCBTに任せるのかという授業設計の視点そのものなのです。

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