はじめに ― 授業改善を「特別なこと」にしないために
近年、学校教育においては「主体的・対話的で深い学び」の実現が強く求められています。その中で、授業改善という言葉は広く使われていますが、実際の現場では「何から手を付ければよいのか分からない」「研究授業のときだけ意識してしまう」といった声も少なくありません。
私自身、授業改善とは大きな改革を行うことではなく、日々の授業を丁寧に振り返り、小さな修正を積み重ねていく営みであると考えています。そのためには、教員の感覚だけに頼るのではなく、生徒の学びの実態を可視化し、それをもとに授業を見直す仕組みが不可欠です。
本稿では、私が実践してきた定期テスト前の授業アンケートを軸とした取り組みについて述べます。
取り組みの出発点 ― 生徒の「声」を起点にする
授業を終えたとき、教員はどうしても「予定どおり進んだか」「説明し切れたか」といった視点で授業を評価しがちです。しかし、それだけでは生徒がどのように学び、何を理解し、どこでつまずいているのかを十分に把握することはできません。
そこで私は、実践の出発点を生徒の声に置くことを意識してきました。生徒が授業をどのように受け止めているのかを定期的に把握し、それを授業設計に反映させることで、教員の独りよがりにならない授業づくりが可能になると考えたからです。
テスト1週間前に行う振り返りアンケートの位置づけ
具体的な取り組みとして行ってきたのが、定期テスト1週間前のタイミングで実施する授業アンケートです。この時期に設定しているのには理由があります。
テスト直前は、結果への不安や焦りが先行しがちで、冷静な振り返りが難しくなります。一方、1週間前であれば、生徒は自分の理解状況を客観的に見つめ直し、「この後、何に取り組むべきか」を考えることができます。同時に、教員にとっても、テストまでにどのような手立てが必要かを判断するための貴重な情報となります。
このアンケートは、学習改善と授業改善を同時に進めるための仕組みとして位置づけています。
アンケートの構成 ― 三つの記述項目
アンケートは、次の三つの記述項目を基本としています。
(1)引き続き取り組んでほしいこと
この項目では、生徒が「学習しやすい」「理解につながっている」と感じている授業の要素を把握します。説明の仕方、板書、演習量、課題の内容など、肯定的な評価が多く寄せられます。
授業改善というと「改善点」に目が向きがちですが、現状でうまく機能している実践を確認し、継続することも重要な改善であると考えています。
(2)改善してほしいこと
この項目では、生徒が感じている分かりにくさや困り感が率直に表れます。「説明のスピードが速い」「問題演習の時間が足りない」「どこまで理解できていればよいのか分からない」といった声は、授業設計を見直す上で非常に示唆に富んでいます。
教員にとっては耳の痛い意見も含まれますが、授業を客観視するための重要な材料として受け止めています。
(3)自由記述
自由記述欄では、授業内容だけでなく、学習への不安や手応え、数学に対する意識の変化など、生徒の内面的な声が表れます。数値化できない学びの変化を読み取る上で、欠かせない項目です。
アンケート結果に基づく具体的な授業改善
これら三項目の回答を分析した結果、以下のような授業改善を行いました。
① 思考力問題とレベル別対策プリントの導入
アンケート分析の中で特に多く見られたのが、思考力を問う問題に対する反応でした。「難しいが考えがいがある」「解説を聞いて初めて理解できた」といった声から、一定の負荷がかかりつつも、学習意欲につながっていることがうかがえました。
そこで、思考力系の問題については、単に答えを示すのではなく、着眼点や考え方のプロセスを重視した解説を行うようにしました。また、理解度に差があることを踏まえ、レベル別の対策プリントを作成し、授業内での演習時間として活用しました。
生徒は自分の理解段階に応じて問題に取り組むことができ、教員は必要に応じて個別に声をかけることができます。この取り組みにより、生徒が主体的に学習に向き合う姿勢が徐々に定着していきました。
② 授業冒頭の復習の継続
また、アンケートでは「前の内容を忘れてしまう」「授業の入りで頭を切り替えたい」といった意見も多く見られました。そこで、授業の冒頭に短時間の復習を取り入れることを継続して行いました。
前時の要点確認や簡単な小問演習を通して学習内容を再接続することで、その後の新しい内容への理解がスムーズになる効果を感じています。この点については肯定的な意見が多く、現在も授業の基本的な流れとして定着しています。
賛否が分かれた実践 ― ペアワークの継続とその判断
隣同士で行うペアワークについては、アンケート結果から賛否が分かれる取り組みであることが分かりました。他者の考えを共有できる点を評価する声がある一方で、「自分のペースで考えたい」「話すことが負担に感じる」といった否定的な意見も見られました。
このように否定的な意見がある実践を継続するかどうかは、慎重な判断が求められます。しかし、考えを言語化し、他者と比較・調整する経験は、思考力や表現力の育成において重要であると判断し、時間や方法を工夫しながら継続しています。すべての意見をそのまま反映するのではなく、教育的意義を踏まえて取捨選択することも、授業改善における教員の重要な役割であると感じています。
アンケートを「改善のサイクル」にする
このように、アンケートで生徒の声を集め、授業を改善し、その結果を再び確認する、というサイクルを回すことで、授業は徐々に生徒の実態に即したものへと変化していきました。
アンケート結果をクラス全体にフィードバックし、「生徒の声をもとに授業を改善している」ことを共有することで、アンケート自体の形骸化を防ぐ効果も感じています。
おわりに ― 小さな改善の積み重ねとして
授業改善に完成形はありません。生徒や学級が変われば、同じ授業でも結果は異なります。だからこそ、定期的に立ち止まり、生徒の声をもとに授業を見直し続けることが重要だと考えています。
定期テスト前の振り返りアンケートは、大がかりな取り組みではありません。しかし、この小さな実践を継続することで、授業と学習の質は確実に変わっていきます。
今後も、生徒の声に耳を傾けながら、学びの質を高める実践に取り組んでいきたいと考えています。



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