高校1年生の文理選択では、こんな言葉をよく耳にします。
「数学が苦手だから文系にします」
もちろん、数学の得意・不得意は文理選択を考える材料の一つです。しかし、文系と理系の違いは、単純に「数学をやるか、やらないか」ではありません。
実際には、文理選択によって、どの教科を、どれくらいの時間をかけて学ぶのかが大きく変わります。理系では数学・理科の授業が増えます。一方、文系では数学・理科の授業が減る分、国語・英語・地理歴史・公民などに多くの時間を使うことになります。つまり文理選択とは、大学受験の科目を決めるだけではなく、高校2年生以降の学習時間の配分を決める選択でもあります。
今回は一般的な大学進学型高校のモデルケースを考えながら、西大和学園高等学校の教育課程も一つの具体例として、文系・理系で数学の学び方がどのように変わるのかを考えてみます。※以下で紹介する単位数・時間数はいずれもモデルケースとしての目安であり、実際の数値は学校ごとに異なります。進路指導の際は、必ず自校の教育課程表・シラバスで最新の数値をご確認ください。
高校1年生では、文系も理系もほぼ同じ数学を学ぶ
多くの高校では、高校1年生の段階では文系・理系を分けず、数学Ⅰ・Aを中心に学習します。進度の速い学校では、高1の途中から数学Ⅱに入ることもあります。モデルケースとして考えると、例えば次のような進度です。
| 学年 | 文系 | 理系 |
|---|---|---|
| 高1 | 数学Ⅰ・A、 (学校によって数学Ⅱの一部) | 数学Ⅰ・A、 (学校によって数学Ⅱの一部) |
| 高2 | 数学Ⅱ・B(・C)を中心に学習 | 数学Ⅱ・B・Cを進め、 数学Ⅲへ |
| 高3 | 共通テスト演習 | 数学Ⅲ・C+大学入試演習 |
高校1年生では、文系志望でも理系志望でも学ぶ内容に大きな違いはありません。違いがはっきりし始めるのは、高校2年生以降です。
単位数で見ると、文理の違いが分かりやすい
文系と理系の違いは、学習する内容だけでなく授業時間にも表れます。一般的な大学進学型高校をモデルにすると、数学の単位数は次のようなイメージになります。
| 学年 | 文系モデル | 理系モデル |
|---|---|---|
| 高1 | 数学Ⅰ3〜4、数学A2〜3単位(計5〜7単位) | 数学Ⅰ3〜4、数学A2〜3単位(計5〜7単位) |
| 高2 | 数学Ⅱ3〜4、数学BC2〜4単位(計5〜8単位) | 数学Ⅱ4、数学BC3〜5単位 (計7〜9単位) |
| 高3 | 数学演習など0〜6単位 | 数学ⅢC3〜6+演習3〜4単位(計6〜10単位) |
もちろん、実際の単位数は学校によってかなり異なります。ただ、理系では数学Ⅲまで学ぶ必要があるため、高2・高3で数学に使う時間が増えやすくなります。例えば高2で、文系が週5〜8時間程度,理系が週7〜9時間程度という教育課程になる学校もあります。
仮に週2〜3時間の差があれば、年間35週として、2.5時間×35週=約90時間程度の差になります。これが2年間続けば、授業時間だけで150〜200時間規模の差になる可能性があります。文理選択は、思っている以上に高校生活の時間配分を変える選択なのです。
文系では数学・理科が減る分、国語・英語・地歴公民が増える
ここで重要なのは、文系になると授業時間そのものが少なくなるわけではない
文系になると授業時間そのものが少なくなるわけではない
ということです。
高校の1週間の授業時間には限りがあります。
そのため、文系で数学や理科の単位数が減れば、その分を別の教科に使います。
大まかなイメージとしては、次のようになります。
| 教科分野 | 文系 | 理系 |
|---|---|---|
| 数学 | 少なめ | 多め |
| 理科 | 少なめ | 多め |
| 国語 | 多め | 少なめ |
| 英語 | 多めになりやすい | 標準〜多め |
| 地理歴史・公民 | 多め | 少なめ |
つまり、
理系は数学・理科に時間を使い、文系は国語・英語・地理歴史・公民に時間を使う
という違いです。
そのため、
「数学が苦手だから文系にすれば勉強が楽になる」
とは限りません。
数学や理科の授業時間が減っても、その分、英語長文を読み、古文・漢文を学び、日本史や世界史、地理、公民などを深く勉強する時間が増えます。
文系と理系の違いは、勉強量の多い・少ないではなく、
どの教科に学習時間を配分するのか
の違いと考えた方が分かりやすいでしょう。
文系数学と理系数学では「目的」が違う
文理選択後は、数学を学ぶ目的にも違いが出てきます。
文系では、数学Ⅱ・B・Cまでを大学入試で使える状態にすることが一つの目標になります。
特に国公立大学を目指す場合、文系でも共通テストで数学を使います。大学によっては、個別試験で数学を選択できる場合もあります。
一方、理系では数学Ⅱ・B・Cは、その先にある数学Ⅲへ進むための土台になります。
つまり同じ数学Ⅱを学んでいても、
文系では「数学Ⅱ・B・Cを入試で使えるようにする」
のに対して、
理系では「数学Ⅲへ進むために数学Ⅱ・B・Cを完成させる」
という違いがあります。理系ではその後に数学Ⅲが控えているため、数学Ⅱ・B・Cをある程度速いペースで進める必要があります。ここが、文系数学と理系数学の大きな違いです。
理系では「教科書を終える時期」が早くなりやすい
数学Ⅲでは、極限、微分法、積分法などを学びます。大学入試では、これらの内容を使った高度な問題演習も必要になります。
そのため、難関大学を目指す進学校では、高3の最後まで教科書内容を学習するのではなく、できるだけ早く高校数学の内容を終え、その後に入試演習の時間を確保しようとすることがあります。
やや進度の速い学校をモデルにすると、次のような流れも考えられます。
| 学年 | 想定される進度 |
|---|---|
| 高1 | 数学Ⅰ・A+数学Ⅱの一部 |
| 高2 | 数学Ⅱ・B・Cを進め、数学Ⅲへ |
| 高3 | 数学Ⅲ・Cを完成させながら大学入試演習 |
一方、文系では数学Ⅲを必要としないケースが多いため、数学Ⅱ・B・Cを比較的ゆっくり学びながら、共通テストや個別試験の演習へ移ることができます。
したがって文理選択後は、
理系の方が数学の授業時間が多くなりやすく、進度も速くなりやすい
と考えてよいでしょう。
西大和学園の教育課程を一つの例として見る
具体例として、西大和学園高等学校の教育課程を見てみます(※以下は同校が公開している教育課程表に基づく一例です。教育課程は年度により改定される可能性があるため、最新情報は必ず学校公式サイトでご確認ください)。
西大和学園は中高一貫校ですが、高校から入学する生徒も一定数います。公開されている教育課程では、高校1年生の数学について、
数学Ⅰ:高校入学生4単位、内部進級生3単位
数学A:3単位
となっています。高校入学生について、数学Ⅰを1単位多く設定している点は興味深いところです。
そして、高校2年生以降は文系・理系で教育課程が分かれます。数学だけを見ると、次のようになっています。
| 高2 | 高3 | |
|---|---|---|
| 文系 | 数学Ⅱ3単位+数学B3単位(計6単位) | 数学Ⅱ4単位+数学C3単位(計7単位) |
| 理系 | 数学Ⅱ4単位+数学B3単位(計7単位) | 数学Ⅲ4単位+数学C3単位(計7単位) |
高2では文系が6単位、理系が7単位です。高3はいずれも7単位ですが、学習内容が異なります。文系では数学Ⅱ・Cを中心に学ぶのに対し、理系では数学Ⅲ・Cを学びます。
ただし、ここで注意したいことがあります。教育課程表に書かれた科目配置と、実際の授業でどの単元をいつ扱うかは必ずしも一致しません。進学校では、教科書上の学年区分より先に学習を進めることもあります。
そのため、西大和学園の教育課程だけを見て、「高2の特定の時期には数学Ⅱが終わる」「高2で必ず数学Ⅲまで終わる」とまでは言えません。西大和学園は難関大学への進学者が多い学校でもあるため、あくまで進学校における一つの例として捉えるのがよいでしょう。
「得意・不得意」だけで決めることの落とし穴
「数学が苦手だから文系にします」
という生徒がいたとき、その考え自体を否定する必要はないと思います。数学への苦手意識が強く、国語・英語・地理歴史・公民などに興味があるのであれば、文系という選択は自然です。
ただし、「数学が嫌だから、とりあえず文系」で終わってしまうのは少し危険です。文系になれば、数学・理科の時間が減る代わりに、国語・英語・地理歴史・公民をより深く学ぶことになります。英単語を覚える、長い英文を読む、古文単語や文法を学ぶ、日本史や世界史の膨大な知識を整理する、論述問題を書く——そうした学習に多くの時間を使うことになります。
つまり、
「数学を勉強しない選択」ではなく、「数学・理科に使っていた時間を別の教科に振り替える選択」
なのです。
反対に、「数学が得意だから理系」だけで決めるのも注意が必要です。理系では数学だけでなく、物理・化学・生物などの理科にも多くの授業時間を使います。数学Ⅲまで進み、理科も複数科目を深く学ぶとなれば、学習量はかなり増えます。数学が好きでも理科に全く興味がなければ、理系を選んだ後に違和感を感じることもあります。
文理選択では、
何が得意か
だけではなく、
何を学びたいのか
まで考える必要があります。
文理選択の説明では「高2の時間割」を見せたい
文理選択の説明では、「将来どんな仕事をしたいか」「大学で何を学びたいか」という話が中心になりがちです。もちろん、それも大切です。
ただ、高校1年生にとって大学や仕事はまだ先の話です。それよりも、
「来年の自分の時間割がどう変わるのか」
を見せた方が、文理選択を現実的に考えられることがあります。
例えば、
「理系なら数学が週7〜9時間程度になる可能性がある」
「さらに物理や化学も増える」
「文系では数学や理科が減る代わりに、国語や英語、地歴公民が増える」
と説明します。すると、「理系は数学が大変そう」「文系なら数学をやらなくていい」という漠然としたイメージから、
自分は高校2年生からどの教科に時間を使いたいのか
という具体的な問いに変わります。
文理選択は「高校生活の学び方」を選ぶこと
文理選択とは、単に大学受験の科目を決めることではありません。高校2年生・3年生で、
どの教科を、どのくらいの時間をかけて、どこまで学ぶのか
を決める選択です。
理系では数学・理科の単位数が増え、数学Ⅲまで学びます。文系では数学・理科の単位数が減る代わりに、国語・英語・地理歴史・公民に多くの時間を使います。
だからこそ、「数学が苦手だから文系」「数学が得意だから理系」だけで決めるのではなく、
自分は何を学びたいのか
どの教科に時間を使いたいのか
大学入試で何が必要になるのか
まで合わせて考えることが大切です。
学校によって教育課程や数学の進度は大きく異なります。文理選択を考えるときには、志望大学の入試科目だけでなく、ぜひ自分の高校の高2・高3の教育課程表やシラバスも確認してみてください。
文理選択とは、
「数学をやるか、やらないか」を決めることではなく、これからの高校生活で何に時間を使って学ぶのかを決めること
なのだと思います。


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