はじめに
数学の授業では、定期考査や小テストの後に「解き直し」を課すことがあります。しかし、解説や模範解答を確認し、正しい解答を書き写すだけでは、必ずしも次の問題を解けるようになるとは限りません。
大切なのは、なぜ解けなかったのか、どこで考え方がずれたのかを振り返り、次の問題解決に生かすことではないでしょうか。
そこで、定期考査後の学習活動として、解き直しと誤答分析を組み合わせた取り組みを実施しました。
実践を通して気づいたのは、生徒の習熟状況によって、解き直す問題の選択や振り返りの質に違いが見られたことです。数学が得意な生徒の中には、難度の高い問題を自ら選び、自分の思考過程を詳しく言語化する生徒がいました。一方で、数学の学習に課題を抱える生徒については、問題選択と振り返りの両方に難しさが見られました。
こうした経験から、誤答分析を単なる解き直しの活動としてではなく、自己調整学習や学習方略の視点から捉え直す必要があると考えるようになりました。
本記事では、誤答分析シートの導入から改訂までの経緯を紹介し、生徒の取り組みから見えてきた可能性と課題について、先行研究を踏まえながら考察します。なお、ここでいう習熟状況は、定期考査の成績や授業中の様子から筆者が判断したものです。
誤答分析シートを導入したきっかけ
導入のきっかけは、同僚から、ある学習塾で誤答分析シートが活用されていると聞いたことでした。生徒に解き直しをさせるだけでなく、なぜ間違えたのかを分析させるという取り組みに関心を持ち、自分の授業でも実践してみることにしました。
1回目の考査後には、解き直しと誤答分析を組み合わせた取り組みを実施しました。当初のシートでは、誤答の原因を「構造・方針」「知識・定石」「処理・計算」「心理・環境」などの観点から分類し、自分の解答と正しい解答を比較する活動を取り入れました。
また、原因を分類するだけでなく、考え方がずれた理由を言語化し、次に似た問題に取り組む際の具体的な行動を考える欄も設けました。「計算ミスをした」「公式を忘れていた」といった結果の確認にとどまらず、自分の問題解決過程を振り返り、今後の学習に生かすことを意図したものです。
1回目で見えてきた課題
実際に取り組ませてみると、当初の想定とは異なる問題が見えてきました。まず、解き直しと誤答分析を組み合わせた活動は、生徒にとって負担が大きかったように感じました。提出率も十分ではなく、解き直しの量や取り組ませ方について見直す必要があると考えました。また、提出されたシートを確認すると、数学の習熟状況によって、取り組み方に違いが見られました。
数学が得意な生徒の取り組み
数学が得意な生徒の中には、深く振り返りを行う生徒がいました。自分がどのように考え、どこで思考が止まったのか、正しい解答と自分の考え方がどのように異なっていたのかを、具体的に言語化していました。こうした記述からは、誤答分析が単に正しい解答を確認する活動にとどまらず、自分の思考過程を捉え直す機会となる可能性を感じました。
ただし、これらの生徒が誤答分析シートによって振り返りの力を高めたのか、もともと自分の思考を言語化する力を備えていたのかについては、現段階では判断できません。それでも、自分の問題解決過程を詳しく振り返る姿は、誤答分析という活動の可能性を考える上で注目すべきものでした。
数学の学習に課題を抱える生徒の取り組み
一方で、数学の学習に課題を抱える生徒については、二つの問題が見られました。
一つ目は、解き直しの質です。生成AIが作成したように見える解答をそのまま写したと思われるものや、途中式を省略したものが目立ちました。
二つ目は、振り返りの質です。選択した問題についても、自分の思考過程や誤答の原因を十分に分析できていない様子が見られました。このことから、誤答分析の記述以前に、そもそも「自分はどの問題に取り組むべきなのか」を判断する段階から支援が必要だった可能性があります。
解き直しの量を減らしても改善しなかったこと
こうした状況を踏まえ、2回目は解き直す問題数を制限し、生徒の負担軽減を図りました。
しかし、問題数を減らしただけでは、数学の学習に課題を抱える生徒の振り返りの質に、明確な改善は見られませんでした。
このことから、誤答分析の質を高めるためには、単に量を調整するだけでは十分ではないのではないかと考えるようになりました。自分に必要な問題を選択すること、自分の思考過程を振り返ること、そして次にどのような学習を行うかを考えることには、それぞれ異なる難しさがあるように思います。
自己調整学習の視点から考える
これらの問題を考える上で参考になるのが、自己調整学習という考え方です。
Zimmerman(2002)は、自己調整学習を「予見」「遂行」「自己省察」という循環的な過程として捉えています。予見の段階では、学習目標を設定し、課題に取り組むための方略を計画します。遂行の段階では、実際に学習に取り組みながら、自分の理解状況や行動をモニタリングします。そして、自己省察の段階では、学習結果や学習過程を振り返り、次の学習に生かしていきます。
このモデルに照らすと、今回の活動は次のように捉えられます。
- 解き直す問題の選択:自分の理解状況を把握し、どの問題に取り組む必要があるかを判断する活動であり、「予見」に関わると考えられます。
- 解き直し:自力で解き進め、解説を参照しながら自分の状況を確認する活動であり、「遂行」にあたります。
- 誤答の原因分析と、次に似た問題が出たときの取り組み方の検討:つまずきを振り返り、次の学習計画へつなげる活動であり、「自己省察」に関わります。
一方で、今回の実践では、こうした活動を生徒自身に任せるだけでは、十分に取り組めない生徒がいました。Panadero(2017)は、自己調整学習に関する複数の理論モデルを整理し、自己調整学習が認知的・メタ認知的な側面だけでなく、動機づけや感情なども含む多面的な過程であることを示しています。そのため、今回見られた生徒間の違いについても、単純に数学の学力だけで説明することはできません。しかし、少なくとも、学習者が自分の状況を適切に判断し、学習過程を振り返るためには、その活動を支える指導が必要なのではないかと考えています。
認知的方略を明示したシートへの改訂
1回目の取り組みと2回目の問題数の調整を経て、2回目以降は、シートの構成そのものを見直しました。改訂後のシートでは、解き直しの過程を可視化するとともに、認知的方略を明示的に取り上げることにしました。
解き直しの過程を可視化する
まず、解説や模範解答を見ずに自力で問題を解き、黒で記入します。その後、分からなくなったところで解説や模範解答を確認し、書き足した部分を赤で記入します。このようにすることで、どこまで自力で考えることができたのか、どこから解説の助けが必要だったのかを、後から確認できるようにしました。正しい解答を完成させることだけでなく、自分の思考過程を残すことを重視しています。
自分の思考過程を分析する
次に、どこで考えが止まったのかを振り返ります。シートでは、つまずいた場面を次のように分類しています。
- 問題の意味をつかむ
- 方針を決める
- 式を立てる
- 計算・処理
- 答えを表現する
- 見直す
さらに、「自分はどのように考えたか」「正しくはどのように考えるべきだったか」「自分の考えと正しい考えは、どこが違っていたか」を記述するようにしています。この活動を通して、誤答の結果だけでなく、問題解決のどの段階で考え方がずれたのかを意識させたいと考えています。
認知的方略を明示する
改訂後のシートでは、問題解決に活用できる考え方として、次の8種類の認知的方略を提示しました。これらは、筆者が数学の問題解決を踏まえて整理したものであり、生徒が振り返りやすいことを意図しています。
| 認知的方略 | 数学の問題解決における具体例 |
|---|---|
| 整理する | 与えられた条件や求めるものを整理する |
| 表現を変える | 式をグラフや増減表に変換する |
| 関連づける | 既習事項と現在の問題を結びつける |
| 具体例で考える | 具体的な数値や場合を考える |
| 分けて考える | 場合分けや部分問題への分解を行う |
| 逆から考える | 結論から必要な条件を考える |
| 比べる | 複数の解法や考え方を比較する |
| 共通点・規則を見つける | 複数の事例から共通する性質を見いだす |
シートでは、方略を選択するだけでなく、「この問題では、その考え方・工夫を具体的にどう使えばよかったか」を記述するようにしています。例えば、関数の最大値・最小値を求める問題では、式だけで考えるのではなく、グラフや増減表に表現を変えることが有効な場合があります。また、文字を含む問題では、具体的な数値を代入して考えることで、問題の構造を理解する手掛かりが得られることもあります。
ただし、こうした方略をシートに提示するだけで、生徒が適切に活用できるようになるとは限りません。この点については、第6節で述べます。
次の学習行動につなげる
最後に、「次に似た問題が出たら、どのように考える・行動するか」を記述する欄を設けました。「よく読む」「気をつける」「頑張る」といった抽象的な表現ではなく、次に実行できる具体的な行動を書くようにしています。誤答分析を、その場限りの振り返りで終わらせるのではなく、次の問題解決につなげることを意図しています。


誤答分析の質を高めるために必要な支援
ここまで見てきたように、解き直しの量を減らしても、シートの構成を見直しても、数学の学習に課題を抱える生徒の振り返りの質に明確な改善は見られませんでした。また、現段階では、提出されたシートに対する教師の関わりは、主として記述内容の確認にとどまっています。
そのため、今後は、シートの形式だけでなく、普段の授業における指導やフィードバックの在り方を検討する必要があると考えています。
解き直す問題の選択を支援する
まず、解き直す問題の選択について、具体的な基準を示す必要があると考えています。例えば、解法の方針が立たなかった問題、重要な考え方を誤っていた問題、解説を読んでも理解が十分でなかった問題では、必要な学習活動が異なります。方針が立たなかった問題であれば方針の立て方の確認が、解説を読んでも理解できなかった問題であれば解説の読み方への支援が必要になると考えられます。
生徒自身に問題を選ばせることは大切ですが、選択の基準を十分に理解していない段階では、教師が例を示すなどの支援が必要かもしれません。最終的には、生徒が自分の理解状況を踏まえて、学習すべき問題を適切に選択できるようになることを目指したいと考えています。
認知的方略を授業の中で明示する
次に、普段の数学の演習で、認知的方略を明示しながら指導する活動を取り入れたいと考えています。
例えば、数学Ⅱの微分・積分の演習であれば、導関数の符号と関数の増減を「関連づける」、式をグラフや増減表に「表現を変える」、文字を含む問題を「具体例で考える」といったように、実際の問題と方略を結びつけながら説明することが考えられます。
Kramarski & Mevarech(2003)は、数学的推論を対象に、協同学習とメタ認知的訓練を組み合わせた指導の効果を検討しています。この研究は、今回設定した8種類の認知的方略を直接検証したものではありませんが、問題解決の過程で自分の考え方を意識的に捉えるための指導を考える上で参考になります。
今後は、教師が方略を明示する段階から、徐々に生徒自身が問題に応じて方略を選択する段階へとつなげていきたいと考えています。
教師のフィードバックを改善する
誤答分析シートへのフィードバックについても、改善の余地があります。
Hattie & Timperley(2007)は、フィードバックを課題、過程、自己調整、自己という4つのレベルから整理しています。今回の実践に照らすと、誤答分析の記述が正しいかどうかを確認するだけでなく、どのような考え方を用いればよかったのか、次にどのような行動を取ればよいのかを考えさせるフィードバックが重要だと考えられます。
例えば、生徒が「次は計算ミスに気をつける」と記述していた場合には、「どの段階で検算すれば間違いに気づけたか」と問い返すことが考えられます。また、「グラフを描く」と記述していた場合には、「何を判断するためにグラフを描くのか」と考えさせることもできるでしょう。
ただし、すべての生徒に詳細なコメントを返すことは、教師の負担という点でも容易ではありません。記述内容に応じて、確認のみでよい場合と、具体的な問いかけや支援が必要な場合を区別するなど、継続可能なフィードバックの方法を検討していきたいと考えています。
今後の実践と研究課題
今後は、次の三つの観点から実践を改善していきたいと考えています。
第一に、問題選択への支援です。どの問題を解き直すべきかを判断するための基準を提示し、生徒が自分の理解状況に応じて学習内容を選択できるようにしていきます。
第二に、認知的方略の明示的な指導です。普段の数学の演習を通して、各方略の意味と活用場面を具体的に説明し、生徒が問題に応じて方略を選択できるようになることを目指します。
第三に、振り返りから次の学習行動への接続です。誤答分析シートに記述した改善策を、その後の演習や小テストなどで実際に活用できているかを確認する方法を検討していきます。
なお、今回の観察は、提出されたシートを通して教師が捉えたものであり、誤答分析シートの使用による学習成果やメタ認知能力の変化を客観的に検証したものではありません。習熟状況による取り組みの違いが、どのような要因によって生じているのかについても、今後さらに検討する必要があります。そのため、問題選択の理由や振り返りの記述内容、その後の問題解決で用いた方略などを継続的に記録し、より具体的に実践を検討していきたいと考えています。
おわりに
誤答分析シートを導入した当初は、間違えた問題を振り返ることで、次の学習に生かしてほしいという思いがありました。しかし、実際に取り組ませてみると、解き直す問題の選択や思考過程の言語化は、生徒にとって必ずしも容易な活動ではありませんでした。
この経験から学んだのは、シートを用意するだけでは不十分であり、その活動を支える指導が必要だということです。自己調整学習は、生徒に学習を任せることだけで実現するものではありません。生徒が自分の理解状況を把握し、必要な学習方略を選択し、その結果を振り返ることができるよう、教師がどのように支援するかが重要だと考えています。
今後も、誤答分析シートの改善と、普段の授業における認知的方略の指導を通して、生徒が自ら学習を調整できるようになるための支援を考えていきたいと思います。
教材資料
第2回定期考査以降で使用した解き直し・誤答分析シート
参考文献
Zimmerman, B. J. (2002). Becoming a self-regulated learner: An overview. Theory Into Practice, 41(2), 64–70. https://doi.org/10.1207/s15430421tip4102_2
Panadero, E. (2017). A review of self-regulated learning: Six models and four directions for research. Frontiers in Psychology, 8, Article 422. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00422
Kramarski, B., & Mevarech, Z. R. (2003). Enhancing mathematical reasoning in the classroom: The effects of cooperative learning and metacognitive training. American Educational Research Journal, 40(1), 281–310. https://doi.org/10.3102/00028312040001281
Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112. https://doi.org/10.3102/003465430298487


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