高校2年生の秋、少しずつ「受験生」という言葉が現実味を帯びてくる時期です。学校でも、
「そろそろ志望校を決めよう」、「オープンキャンパスに行こう」、「模試の判定を確認しよう」
といった進路指導が増えてきます。しかし、進路希望調査に大学名を書いたからといって、本当に自分の進路について考えたことになるのでしょうか。
そもそも、
なぜ大学に進学するのか。
大学に入るためには、どのような方法があるのか。
自分が希望する進路を実現するためには、高校2年生の今、何をしておく必要があるのか。
こうしたことを、生徒自身が調べ、考える時間が必要です。
そこで今回は、高校2年生の進路指導を「説明を聞く時間」ではなく、自分の進路を探究する時間として設計しました。
1.まず「自分たちの世代」を知る
最初から大学について調べるのではなく、もう少し大きな視点から始めます。
最初の問いは、
「日本には、あなたと同じ学年の人が何人いると思いますか?」
です。現在の高校2年生の世代は、出生時には全国でおよそ100万人規模です。
※出典:厚生労働省「人口動態統計」。対象となる学年によって数字は変わるため、実践時には該当する出生年のデータを確認します。
では、その人たちはこれから全員同じ道を歩むのでしょうか。もちろん、そうではありません。
中学校を卒業して高校へ進学する。
高校を卒業する。
途中で転学したり、中途退学したりする。
大学へ進学する。
短期大学や専門学校へ進学する。
就職する。
浪人して、翌年もう一度大学入試に挑戦する。
同じ年に生まれた人たちも、18歳、20歳と年齢を重ねるにつれて、さまざまな進路へと分かれていきます。
文部科学省「学校基本調査」などのデータを使えば、高校進学率、大学進学率、高校中退者数、就職者数などを調べることができます。ここで重要なのは、単に数字を覚えることではありません。
例えば、「大学進学率○%」という数字があったとします。そのとき、分母は誰なのか。現役生だけなのか。既卒生も含むのか。短期大学は含まれるのか。普通科だけなら割合はどう変わるのか。何年度のデータなのか。こうしたところまで考える必要があります。これは進路指導であると同時に、統計を読み取る学習でもあります。
2.大学入試にはどんなルートがあるのか
社会全体の進路を見たところで、次は大学入試へと焦点を絞ります。大学に進学するといっても、その方法は一つではありません。大きく分けると、
- 学校推薦型選抜
- 総合型選抜
- 一般選抜
などがあります。ここで気をつけたいのは、「どの方式が楽なのか」という比較にしないことです。それぞれの入試では、求められるものが異なります。高校生活での積み重ねが重要になる入試。大学で学びたいことや、これまでの活動を言語化することが求められる入試。教科の学力試験を中心に合否を決める入試。
それぞれの特徴を知ったうえで、
「もし自分が1年後にこの方式で出願するとしたら、何を準備する必要があるのか?」
と考えます。
3.モデルケース① 学校推薦型選
学校推薦型選抜については、早稲田大学を一つのモデルケースとして扱います。学部によって求められる条件や準備が異なるため、具体的な大学・学部を例にすることで、学校推薦型選抜についてより現実的に考えることができます。
しかし、「推薦で大学へ行く」というだけでは十分ではありません。
例えば、ある学部への進学を希望するとします。そのとき、
なぜその学部なのか。
大学で何を学びたいのか。
高校生活で何をしてきたのか。
大学での学びを、その後どのように生かしたいのか。
こうしたことを、自分の言葉で説明する必要があります。そこで、学校推薦型選抜を選択する生徒には、大学・学部について調べたうえで、仮の志望理由書をWordで作成してもらいます。完成された志望理由書である必要はありません。むしろ、
「高校2年生の今、自分はなぜこの進路を考えているのか」
を一度文章にしてみることに意味があります。数か月後、高校3年生になったときに読み返せば、自分の考えがどのように変化したのかも分かります。
4.モデルケース② 総合型選抜
総合型選抜については、立命館大学や桜美林大学などをモデルケースとして扱います。
総合型選抜というと、「何か特別な実績を持っている人が受ける入試」というイメージを持っている生徒もいるかもしれません。しかし、実際の入試制度を調べてみると、大学や学部によって選考方法はかなり異なります。
そこで、実際の募集要項を見ながら、
出願資格は何か。
評定の条件はあるのか。
英語資格などは必要なのか。
どのような提出書類が必要なのか。
これまでの活動について何を書くのか。
面接やプレゼンテーションはあるのか。
といったことを確認します。そして、総合型選抜を選択した生徒には、
実際に必要となる提出書類を一つ作ってみる
または、
出願までに必要となる活動・資格・経験などを整理し、高校3年生までの計画を作る
というワークに取り組んでもらいます。ここで考えてほしいのは、
「1年後に出願するとしたら、今の自分には何があり、何が足りないのか?」
ということです。高校3年生になって募集要項を見て、
「こんな活動が必要だったのか」
「この資格を取っておけばよかった」
と気づいても、準備できる時間は限られています。だからこそ、高校2年生のうちに一度、実際の募集要項を読んでみる経験をしてほしいと考えています。
5.モデルケース③ 一般選抜
一般選抜については、東京大学と私立大学を組み合わせたモデルケースを扱います。例えば、
「第一志望を東京大学とした場合、どのような受験スケジュールになるのか?」というところから考えます。大学入試は、単に試験を受ければよいわけではありません。出願があります。共通テストがあります。私立大学の入試があります。合格発表があります。入学手続の締切があります。そして、国公立大学の二次試験があります。
複数の大学を受験する場合、
試験日が連続していないか。
第一志望の合格発表より前に、併願校の入学手続締切が来ないか。
共通テスト利用方式をどう使うのか。
といったことも考えなければなりません。そこで、一般選抜を選択した生徒には、自分なりの受験スケジュールを作ってもらいます。
さらに、受験科目、各科目の配点、合格最低点、試験時間、過去問の大問構成、頻出分野、記述式かマーク式か、現在の自分でも解けそうな問題などについても調べます。
過去問は、高校3年生になってから初めて見るものではありません。まだ解けなくても構いません。高校2年生の段階で一度見て、
「1年後、自分はこの問題で合格点を取る必要がある」と知るだけでも、今後の学習に対する見方は変わります。
6.3種類のワークから一つを選択する
今回の探究では、全員に3種類すべてを取り組ませる予定はありません。学校推薦型選抜、総合型選抜、一般選抜の中から、自分が調べてみたいものを一つ選択します。現時点で実際に利用する予定の入試方式と一致していなくても構いません。今回の選択によって、将来の受験方式を決定するわけではないからです。それぞれの成果物をまとめると、次のようになります。
| 選択する入試方式 | 主に調べること | 成果物 |
|---|---|---|
| 学校推薦型選抜 | 志望大学・学部の特色、求める学生像など | 仮の志望理由書(Word) |
| 総合型選抜 | 出願資格、評定、提出書類、面接、必要な活動・資格など | 提出書類の試作、または出願までの活動計画 |
| 一般選抜 | 入試日程、受験科目、配点、合格最低点、過去問の傾向など | 受験スケジュール・受験戦略 |
成果物は発表ではなく、提出する形を予定しています。進路には、大学・学部、成績、家庭の事情、将来についての考えなど、他の生徒には共有したくない情報も含まれます。そのため、クラス全体で共有する部分と、個人で考える部分は分ける必要があります。
社会全体の進路は、みんなで考える。
自分自身の進路は、自分で考える。
この区別は大切にしたいと思います。
7.4時間の進路探究として設計する
今回、進路探究として実質的に使える時間は4時間程度です。そこで、次のような流れを考えています。
1時間目 社会全体から進路を見る
「同世代は何人いるのか?」
「高校卒業後、どのような進路に分かれるのか?」
といった問いから、日本の進路をデータで俯瞰します。
2時間目 大学入試を具体的に見る
前半は講義形式で、学校推薦型・総合型・一般選抜について、実際の大学をモデルケースとして説明します。後半は簡単なワークを行い、自分が取り組む入試方式を決めます。
3時間目 自分の進路を調査する
ここからは各自でワークを進めます。
大学の公式サイト、募集要項、過去問、アドミッション・ポリシーなど、できるだけ一次資料を使って調査します。
4時間目 成果物を完成させる
調査した情報をもとに、
- 志望理由書
- 総合型選抜の提出書類・活動計画
- 一般選抜の受験戦略シート
のいずれかを完成させ、提出します。
8.最後に考えるのは「高2の冬までに何をするか」
3つの入試方式では、必要になる準備が異なります。しかし、最後に考える問いは共通です。
「高校2年生の冬までに、自分は何をするのか?」
学校推薦型選抜を考えるなら、大学・学部についてもっと深く調べる必要があるかもしれません。総合型選抜なら、探究活動や資格取得など、今から始めるべきことが見つかるかもしれません。一般選抜なら、過去問を見たことで、基礎を完成させるべき科目や単元が見えてくるかもしれません。ここで大切なのは、高校2年生の冬までに進路を完全に決めることではありません。むしろ、
自分にはどのような選択肢があるのかを知る。
その選択肢を実現するためには何が必要なのかを知る。
そして、今からできることを一つ始める。
そこまでできれば、高校2年生の進路探究として十分だと考えています。
おわり
進路指導では、教師が多くの情報を持っています。だからこそ、
「この大学ならこのくらいの成績が必要」
「推薦ならこれをやっておいた方がいい」
「一般入試ならこの科目を勉強しなさい」
と、答えを先に伝えたくなります。しかし、実際に進路を選択するのは生徒自身です。そこで今回は、
社会全体を見る
↓
実際の大学入試を見る
↓
自分が一つの方式を選んで調べる
↓
実際に必要となるものを作ってみる
↓
高2の冬からの行動を考える
という流れで進路を考えてみることにしました。進路指導を、「先生から進路について教えてもらう時間」から、「自分の進路について自分で調べ、考える時間」へ。4時間という短い時間ですが、生徒たちが自分の進路を具体的に考え始めるきっかけになればと思います。
実践後には、生徒たちがどの入試方式を選び、どのような気づきがあったのかについても振り返ってみたいと思います。


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