高校に入学すると、数学の教科書や問題集と一緒に「青チャート」を購入する学校があります。
実際には、青チャートを最初から最後まで全部解くわけではない学校も多いはずです。そうなると、「全部やらないのに、なぜ学校で買うの?」と疑問に思う人もいるでしょう。
私は高校数学を教える立場として、青チャートのような網羅系参考書は、全員が全部解くために持たせる教材ではないと考えています。むしろ、高校数学を学ぶ中で必要になったときに調べたり、授業や学校問題集だけでは足りない部分を補ったりするための一冊、という意味合いの方が大きいです。
今回は、なぜ高校では青チャートのような網羅系参考書を生徒に購入させることが多いのか、学校側の視点から考えてみます。
教科書だけではカバーできない部分を補う一冊
学校が青チャートを採用する一番の理由は、高校3年間で使える網羅系参考書を、生徒全員に1冊持たせておきたいという点にあります。
高校数学の授業は教科書を中心に進みます。教科書はもちろん最も重要な教材ですが、大学入試問題や模試のすべてに対応できるわけではありません。教科書では扱われないけれど入試ではよく登場する典型問題もあり、模試を受けたときに「こんな問題、授業ではやっていない」ということも起こります。
そんなとき、生徒の手元に網羅系参考書があれば、「このタイプの問題は青チャートのこの例題を見てみよう」と確認できます。毎日何ページも進める必要はなく、必要になったときに調べられる教材が手元にあること自体に価値があるのです。私は青チャートを、問題集というより「高校数学の辞書」に近いものとして捉えています。
なぜ青チャートなのか
網羅系参考書には青チャート以外にも、Focus GoldやNEW ACTION LEGENDなどがあります。それでも青チャートを採用する学校が多いのは、知名度の高さゆえに生徒や保護者にも認知されていることが理由の一つでしょう。学校で購入しなくても、生徒が自主的に選ぶ可能性が高い教材であれば、最初から学校で1冊決めて持たせておく方が合理的です。
教員側にとっても、全員が同じ教材を持っていれば「この問題が分からなければ、この例題を確認してください」と共通の指示を出せます。この「共通言語」としての役割は、学校教材として意外と重要です。
教材選びの裏側:出版社の組み合わせ
高校数学では、教科書の進度に合わせて学校問題集の課題を出すことが多くあります。このとき教科書と問題集の単元配列が対応していると課題を作りやすいため、同じ出版社(数研出版など)で揃えるケースが珍しくありません。
一方、網羅系参考書は授業で毎時間使う教材ではなく、必要なときに参照したり自学自習で使ったりする教材です。そのため教科書・問題集は数研出版、網羅系参考書はFocus Goldというように、あえて別の出版社を組み合わせることもあります。教科書会社や教材出版社とは日頃から見本や資料のやり取りがあるため、複数の出版社と接点を持つこと自体にも学校側のメリットがあります。この採択の裏事情は、生徒からはなかなか見えない部分かもしれません。
なお、青チャートのように書店でも買える市販教材と、学校採用を前提とした教材とでは性格が異なります。市販教材には、卒業後に買い直しやすい、転校や兄弟からの紹介でも名前が通じやすいといった安心感がありますが、どちらが絶対的に正解ということはありません。大切なのは、網羅系参考書を1冊に決め、3年間の共通教材として使い続けられる状態を作ることです。
定期考査に「深み」を出すために
定期考査が教科書の例題そのまま、学校問題集の数字替えだけになると、生徒は数学を「問題の形を覚える教科」として捉えてしまいがちです。基本問題を確実に解けるようにすることは大切ですが、高校数学では「習った知識を少し違う状況で使えるか」という力も身につけてほしいところです。
そこで、入試を意識した問題や典型問題を少し変えた問題を定期考査に加えることで、テストに深みを出すことができます。これは単にテストを難しくしたいという話ではなく、学校の数学と大学入試の数学を少しずつつなげていくための工夫です。青チャートのような教材が全員の手元にあれば、そうした問題に向けた学習の機会も作りやすくなります。
吹きこぼし(できる生徒が物足りなさを感じる状態)を防ぐ
クラスの中でも数学の習熟度には差があります。教科書を理解するだけで精一杯の生徒もいれば、教科書も学校問題集も物足りないという生徒もいます。全員に同じ問題だけを与えていると、後者にとって授業が退屈になりがちです。
そこで、教科書と学校問題集が終わった生徒には「次は青チャートのこの問題に挑戦してみよう」と促せます。教員がそのたびに発展問題のプリントを作らなくても、生徒自身が次の学習に進められる点は、学校教材として大きなメリットです。
「全員が持つ」ことと「全員が全部解く」ことは別の話
ここまで読むと「それなら全員が青チャートをやればいいのでは」と思うかもしれませんが、そうではありません。
学校が青チャートを全員に購入させることと、全員に最初から最後まで解かせることは別の話です。教科書や学校問題集の基本問題にまだ時間がかかっている生徒は、まずそちらを優先すればよく、基本問題を十分に解ける生徒は青チャートで次のレベルに進めばよいのです。全員が同じ教材を持っていても、全員が同じ使い方をする必要はありません。私は、この形が高校数学では自然だと思っています。
まとめ|学校が青チャートを買わせるのには理由がある
分厚い参考書を見て「本当に全部やるの?」と思う人もいるでしょう。実際、全部解く必要はない生徒も多いはずです。それでも学校が青チャートのような網羅系参考書を持たせるのには理由があります。
- 教科書では扱われない問題まで確認できる一冊を持たせておけること
- 模試や大学入試を意識した学習につなげられること
- 定期考査に発展的な問題を取り入れやすくなること
- 学習が進んでいる生徒の吹きこぼしを防げること
また、網羅系参考書は何冊も必要ありません。青チャート、Focus Gold、NEW ACTION LEGENDにはそれぞれ特徴がありますが、まずは学校で採択された1冊を長く使うことの方が重要です。
「学校で買ったから全部解かなければならない」と考える必要はありません。学校は全員に同じ「数学の辞書」を持たせ、生徒一人ひとりが自分の到達度に合わせて使う——それが、青チャートのような網羅系参考書に合った使い方だと思います。


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